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OBからのメッセージ No.43

  • 第9期 機械工学科
卒業年度:1975年(S50年)

  • 第9期 機械工学科
卒業年度:1975年(S50年)

表題

  • 冬道ドライブの注意と秘訣

2025/10/1

 

雪積や凍結した冬の道はとても滑りやすくなるので、車の運転には危険が付きまといます。(それ以外の滑り易い状況も含めて本文では以後 「低μ路」 と呼びます。)
 小生、トラクションコントロールシステムの開発に従事し、低μ路を極限運転した経験から、その注意事項や秘訣を紹介しようと思います(本文ではドイツ語の「ASR」を用います。※a詳細)。

※a:略語の補足説明: ※※ASR:「Antrieb(推進力) Schlupf(滑り) Regelung(調節) =駆動輪空転制御」 車のエンジン出力が過大の時、駆動輪が空転(=路面に対するスリップ)して車体の走行安定性が失われ、スピンに至ることがあります。そうなる直前にブレーキ圧力とエンジン出力の双方を最適に調整して、空転を止め、路面に対するタイヤのグリップを確保する制御システムがASRです。今では一般的に使用される言葉 「トラクションコントロール」は英語で、「粘着摩擦制御とか牽引力制御」の意。 「TCS」と略される一方TRC、VSC、VAC等々類似の呼称が複数存在して紛らわしいので、ここではドイツ語の略称を採択しました。
※※ABS: 「Antiーlock Braking System(=ロックしないブレーキシステム)」 ブレーキ時にその力が過大で車輪がロック(回転停止)すると車体の走行安定性が失われ、スピンに至ることがあります。そうなる直前に、ブレーキ圧力を最適調整してロックを防ぎ路面に対するタイヤのグリップを確保する制御システムがABSです。

 

まずは低μ路で車がどの様にスリップ&スピンするのか、その後どの様な結末になるのか、いろいろな事象をご覧下さい。スリップを沢山経験された方はスキップされても結構です。
※1)  Car ice Sliding crash & spin outs. /King of Road:https://www.youtube.com/watch?v=6mu-MQNC-m4

※2)  参考Icy Road Madness caught on Camera: https://www.youtube.com/watch?v=lJOqufU9vpQ

Car slip, slide 或いはSnow road, Icy Road等のキーワードで他の事例もご覧頂けます。

動画※1と※2はドライブレコーダーや監視カメラ等に録画されたものや個人が現場を即興撮影した動画を集めて解説したものです。低μ路では誰でも遭遇する可能性があります。

 

ここでは低μ路に於けるスリップの様々な事象が見えます。エンジンブレーキで駆動輪が減速、路面の凹凸、過度なハンドル操作、急ブレーキのような場合、路面に対してタイヤが滑りグリップ力を失うため、その後はブレーキペダルを踏み4輪同時に制動が始まるまでの間に、FR車でもFF車でも挙動は異なりますが、車体がスピンする場合があります。駆動力過大(アクセル踏み過ぎ)や急加速でも駆動輪が空転し、車体のスピンに至ります。

 

次はJAFが監修したタイヤ種別毎の登坂及びブレーキのテスト結果です。

※3) 雪道での登坂テスト /JAF Channel: https://www.youtube.com/watch?v=eUt-gFHu1Mo

※4) 走れても止まれない!(平滑低μ路ブレーキテスト): https://www.youtube.com/watch?v=gHwPjHD3vKg

動画※4ではABS機能が確認できます。

夏タイヤでも積雪路を運転出来た例外を一つ参考までに添付しておきます。

※5) https://www.youtube.com/watch?v=oQaR9X2lC7c  (2分14秒頃に見えます)

 

ABSは制御限界速度(ゆっくり歩く速さ)以下になったら制御を止めます。その後は車輪がロックし車体は若干スリップしますが、平坦な低μ路であれば1~2mで止まります。(動画※4の4分'38秒頃参照)。しかし下り坂では動画 ※1の6分35秒以降に見られるように タイヤがロックした後なので制御は止め。こうなったら 「ケ・セラ・セラ」!「運は天に任せる⇒運転」が定めです。

 

また、車体がスピンして大きく横向きになるような場合にもABSは制御を止めます。スピンの途中でABSが作用して万が一タイヤのグリップが回復した場合にはその方向へ進み、道から出たり橋から落ちたりする可能性もあります。スピンし続けて車両の直前の進行方向へ滑るより、危険が増すのでABSの制御はしないほうが安全なのです。

 

<その1:スウェーデンの雪路> 昭和61年(1986年)3月、ASRの業務に就いて2年目。出張訪問したスウェーデン北部の自然豊かな小さな町の片側一車線の圧雪路を走行中、対向車が見えました。双方ともたぶん60km/h以上。すれ違う時の安全のために私は事前に減速しようと車のアクセルペダルから足を離しました。そしたらすぐさまエンジンブレーキがかかり車体が僅かにスピンを始めました。「まずい、このままではぶつかる!」 私は咄嗟にギヤをニュートラルに入れて、ハンドル操作で難を逃れました。「ふー」間一髪の事でした。さて対向車を運転していたのはおとぎ話に出て来る魔女のような風貌の老婆、颯爽と通り過ぎて行きました。

その地では老婆でも雪道ドライブの達人!

ギアをニュートラルに入れれば4つの車輪が速度に応じて回転し、タイヤのグリップが戻り、それからブレーキを踏むと4輪が同時に制動するのでスピンを概ね防止出来ます。MT車の場合にはクラッチペダルを踏んでも対応できます。低μ路のテストコースに於いてABSのテストをする際に実践していた技でした。

 

<その2:富士山の雪路> 昭和52年頃(1977年)の年明けに友人((北海道出身)が富士山へドライブに誘ってくれました。車はFRのカローラレビン(当時は希少価値のDOHCエンジンを搭載)で、夏タイヤのままチェーンも準備しておらず、雪道を巧く走れるか心配でした。
さて標高が高くなりシャーベット混じりの圧雪路に来たら、タイヤの空気を抜いて圧力を下げ接地部分を20cm程に調整しました(通常7cm弱)。 これで接地面積&摩擦力が倍増!その先は、速度を30km以下に落として難無く通過しました。雪道運転に熟練していた友人の、臨機応変で手際の良い対応でした。雪の無い麓の道に戻ってから、ガソリンスタンドで空気圧を再調整したことは言わずもがなです。

備えがなくともこのような応急策があります。「日本海側の雪道で大渋滞!」が複数回ニュース放送されましたが、先頭車両がこのような処置をしていたら状況は変わっていたかもしれません。

 

<その3:ASRを装着したテスト車でスピン> 昭和63年(1988年)2月の深夜、試作中のASRを装着したテスト車で、北海道東部のとある町の交差点で左折しようとしたら、更に180度スピンし右方向の道路に向かってしまいました。他に車はいなかったのと、付近の建造物に衝突するほど道幅が狭くなかったので、辛うじて衝突事故には至りませんでしたが、一瞬「ひやっ」としました。 試作ECUが突然故障した様です。 後に調査した処、基板を固定するねじが緩んで外れ、基板の回路に短絡したものでした。

 

さてABSでもASR でも、装置の故障でなくとも制御が追い付けなることがあります。それはどちらも車輪の接地面に対する「滑り」を物理的限界内で制御しているので、その限界の外ではどうにもなりません。 油断は禁物! その大きな要因はオーバースピード(速度過大)です。動画を見て、安全に停車した車、無事に回避した車、止む無く衝突した車の挙動の違いを感じ取って頂ければ幸いです。

テスト路面は均質に整備されているので限界内の制御は容易ですが、一般道は轍・傾斜・凸凹等で不均一になり早期に限界を超えることが想定されますので、状況に応じて速度を適切にすることが肝要です。

 

<その4:凍結登坂路でのゼロ発進> その3と同時期、上り坂発進の試験の話。ASRのテストコースは長さ数m勾配7%(=4度)程度の凍結登坂路等を設けていました。その他、低μ路スラロームコース、凍結スキッドパッド等々、繰り返し何度も極限運転していた私自らが車酔いにあったのは想定外でした。(信じてもらえないかもしれませんが。)

凍結登坂路でASR機能をONにしてゼロ発進を試みました。エンジン回転を上げていくと、摩擦力の小さい側の車輪が空転し始めるのですが、車体速度が制御可能速度に達していないので、ASR制御は始まりません。タイヤが滑ってしまい、車体が後ずさりする始末です。

ブレーキペダルを踏んでアクセルを徐々に開きながら、ブレーキをゆっくり緩め乍ら発進を試みました。10回中5回ほど成功!(ASR機能は確認できませんが、動画※3の2分58秒以降も参照してみてください。)

平坦路から助走をつけて登坂路に進入・加速した場合にはASRが支援してくれて登れました。

凍結した登坂路では停止しないで、徐行速度以上で進行し続けることが肝要です。一旦停止すればもはや再発進は困難。他に車が居なければ平坦路まで後退し、助走をつけてやり直すのが暫定案でしょう。

尚、「凍結登坂路ゼロ発進」以外のテストではASRのほうが遥かに優れていました。あれから37年も経った今ではASR&ABS共に完璧な対策が施されているものと察します。

 

<その5:凍結十字路の交差点にて> 平成6年(1994年) 11月、米国のワシントン州中央に位置する地方のML市(北緯47度=樺太南部の旧日本領と同等の緯度)に赴任し、家内の車の運転免許取得に向けて夜明け前に練習していた時の話。

町の中の大きな十字路交差点は片側2車線に左折車線を加えた5車線道路で且つキャンバー(道路の水はけを促す中高の反り)が大きく設けられていました。その交差点では中央付近がキャンバーの頂上に向かった上り坂になっております。

さて冬季の早朝5時頃は気温が-10℃以下。その交差点で一旦停車し、青信号で発進するとその上り坂はカチンコチンに凍結しており、練習中の家内の技量ではスパイクタイヤでも巧く進みませんでした。やっと交差点の中央付近で所謂「峠」を超える頃に信号が赤になってしまいました。まぁ、横から来る車は居なかったし、居たとしても同様の状況だろうから問題はなかっただろうと笑って過ごしましたが、冷や汗ものでした。一旦帰宅して小生が出勤のために7時頃にそこを通過したら同様の始末で、笑ったことを反省する嵌めになりました。少なくとも低μ路運転の熟練を自負していた小生でも似たようなものでしたから油断は禁物。その先会社へ向かう道中、道からはみ出てスタックしている何台もの車に、哀れみ同情した次第。

 

<その6:凸凹ツルツルの高速道路> 平成8年 (1996年) 1月頃、ワシントン州東方のSp市からML市に帰る道中標高600m位の山間に掛かった時天候は氷雨状態、雨粒が落下してすぐに凍結する寒さで、路面は凸凹でツルツルになりました。車はFordの1988年型Aerostar、FR車にスパイクタイヤを装着し乍らもABSやASRは無い時代の代物。走行中、フロントガラスに結氷が広がって前方視界が徐々に遮られる勢い。デフロスター効果を高めるためにゆっくり走行。あちらこちらで脱輪・転落・衝突事故等々30件以上に遭遇。田舎の高速道路は交通量が閑散で事故現場は一か所に集中することなくあちこちに点在していました。動かない事故車の傍の隙間を、恰(あたか)もスケーターが弧を描きながら滑るが如く、のんびり走る自転車程の遅さで通り抜けたことがあります。同乗していた家族は皆、ゆらりゆらり、右に左に滑り続ける初めての感触に恐(おそ)れ慄(おのの)き、無言になりました。万一途中で一旦停止したら再発進するのに難儀したことでしょう。仕事柄会得した技量に自分を褒めて挙げたかった瞬間でした。

そんな危険な凍結区間は10km程、通過するのに1時間ほどかかりました。夏場なら2時間で走れる処、4時間掛かり乍らも事故に会うこと無くやっと帰宅できました。

雪道のハンドル操作に関して「握る」操作は好ましくありません。咄嗟の場合に「握る&廻す、離す」動作に時間が掛かりすぎるのです。最適な手法は親指以外の指をU字フック状にしてハンドル外輪に引っ掛けて操作するか、更に滑りやすい路面では指先でハンドルを押し付けながら、操作するのです。そうすれば左右の手を交互に動作しながら適切な角度へ素早く回転できます。スリップを始めたときの逆ハン操作にはとても有効です。更に滑り易い路面では指二本でハンドルを抓みながら操作します。但し素早く操作できたとしても過度な角度へ回すのはダメで、ひたすら適切な角度へ合わせることが肝要です。

 

以上を鑑みて、低μ路での運転を練習する施設は無いものかと「安全運転研修所」のキーワードで調べてみたら、数か所存在する様です。因みに定年前に勤めていた会社では頻繁に降雪することと車通勤が余儀なくされていたので、新入社員向けオリエンテーションで利用していたようです。(彦根市「クレフィール湖東・安全運転研修所」、その他の例:ひたちなか市「安全運転中央研修所」、モビリティリゾートモテギ「交通教育センター」、鈴鹿サーキット「交通教育センター」)一見すると企業向けの訓練が主体のようですが、個人で練習できるかどうか問い合わせてみては如何でしょう。

 

ABSやASRは予防的な安全装置です。事故を避けきれなかった場合にはシートベルトやエアバッグが身体の損傷を微力ながらも軽減してくれるでしょう。

念のため、安全運転のためシートベルトの着用を推奨するPRビデオを紹介しておきます。

※6) Seat Belt Ad Safety Montage: https://www.youtube.com/watch?v=HFX9kQweHZ4

安全への警鐘:「運転手は前方刮目せよ! 歩行者は安全の為、周囲に注意すべし。」もどうぞ。

※7)  World Best Creative Road Safety Ads Commercials: https://www.youtube.com/watch?v=3KcvMLEYF1w

皆様がいつも安全で、いつまでも幸せな人生を謳歌されますよう願ってやみません。

 

余計な事かもしれませんが蛇足を一つお許し下さい:

昨今、TV放送で「ブラック・アイス・バーン」とかいう言葉を聞きます。これは後述するように出鱈目外国語(英語&独語ごちゃ混ぜ)ですから、英人・米人・豪人にもドイツ人&オーストリア人には理解されにくいことと察します。

「Black Ice」 は英語。道路上の局所的に凍った場所がドライバーから見て真黒く見えるのです。長い範囲が凍った道路は 「Icy road」 と呼ばれます。動画※1、※2にて聴き取れます。

「Eisbahn」 はドイツ語で、”スケートリンク“の事。「bahn」 は道路で、「Autobahn」 は自動車道路なのだから、「Eis」(=氷)と組み合わせたら「凍結路面だろう?」とはならないようです。

ドイツ在住の親友のドイツ人に真偽を尋ねたら

「Glatteis」(グラットアイス=滑り易い氷、氷面、凍結路)とか

「Blitzeis」(ブリッツアイス=閃く氷、英語のBlack Iceに近い)と呼ぶそうです。

 

賢明な諸兄に措かれましては釈迦に説法かと思いますが、念のため。



運営からのコメント

トラクションコントロールシステムの開発と、雪積路や凍結路を運転した経験から どんなときにスピンするのか、ASRやABSがどんな役割を果たすのか、スピンを止めるにはどうすればいいのかなどを紹介頂いています。 車の運転で起こるスピンをエンジニアの視点で分析しています。ぜひご一読ください。
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