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OBからのメッセージ No.39

  • 第9期 機械工学科
卒業年度:1975年(S50年)

  • 第9期 機械工学科
卒業年度:1975年(S50年)

表題

  • 誰も知らない プロジェクトtiny-x

2024/11/1

 

2000 年3月に始まったNHKの「プロジェクトX」、日本が誇る建造物や工業製品の開発の話とかその他の偉業に関する話の表も裏をも明かしてくれて、技術者として働いていた私への教訓になる話がてんこ盛りで、とても楽しみでした。2005年12 月に終了したので寂しく思っていましたが、2024年4月から「新プロジェクトX」が復活したので楽しみが戻りました。

 

NHKが放送するのは誰もが知っているような輝かしい功績ばかりですが、高専卒業諸兄からすれば「俺だって多少なりとも輝くような足跡は残してきたんだぜ。ただNHKから取材を受けたことがなかっただけさ。」という話も多々あるのではないでしょうか? そういう諸兄の皆様方々、この場にて自慢ついでに打ち明けてみては如何でしょうか?

恐縮乍ら小生の経験でも少しばかりあります。取材を受けるほど目立つ仕事ではなかったので私の寿命が尽きれば誰も認識することもなければ讃えられることもないでしょう。せめて母校の同窓生や後輩たちが興味を持って読んでくれて、何かの折に参考になればと願って止みません。

 

学生時代昭和 48 年頃新たに創設されたローターアクトクラブに参加して公園掃除や老人ホーム慰問などの社会奉仕活動していたことがありました。ロータリークラブ本部に伺った時に、或る鉄鋼所の社長さんがおっしゃいました。「社会奉仕にはいろいろあって、皆さんが活動しているのも一つ。皆の生活が便利になったり世の中の助けになるような仕事をするのも一つ。まづは勉学に励み、知識を深く広く学び、上手に生かせる人になって下さい。」と。社会人になってからはそのような考えを持って業務に邁進しておりました。

 

任務で設計した工程と機械類は多々あり、製品が車に搭載されて安全運転の一役を担い社会に貢献していたことは確かですが、如何せん名前も機能も世間様には知られぬものばかり。ですからここで小生が裏話をしても興味を持たれないかもしれません。それ故、本来業務に拘らず皆様がご存じであったり認識されやすい事例をプロジェクトtiny-xとして紹介しようと思います。

 

昭和58年(1983年)頃、新工場建設に伴う様々な備品類の調達業務を担っていた。 出入りの商社から入手していたカタログでそれらを探しているときに気付いたことは「必要な物品のイメージはあるのだけれども名前が分からない。然るに索引を頼りにすることは出来ないのでページを捲めくりながら探していくしかない。それにしても数百ページもあるカタログを何冊も探すのは何と時間の掛かることであろうか!」だった。ちょっと前まで勤務していた親会社の現場に行って、「これなんていうの?」と聞いても品名を即座に回答してくれる人はいなかった。

例えば大きな荷物を載せた木製台枠(パレット)に爪先を突っ込んで油圧ジャッキを作用させて浮き上がらせて運ぶ台車の名前が分からない。“通称:ガチャガチャ”でも“台車”の索引を見ても該当する物が無い。(後に写真式索引にはキャッチパレットと称されていた。)

固有名詞を知らなくても日本人は“あれ”や“これ”の代名詞で済ませる場合が多い。例えば、便器が詰まった時に使うゴム製の吸着パッドのような物の名前(通称:パコパコ)がそう。1992年米国出張中、そういうものが必要になったことがあり、会社の若い女性事務員に尋ねたら “What you are looking for is called Plunger!” と即答された。米国人は女性でも若くても固有名詞を知っている!

 

そんな折、工場用備品(棚、作業台、保管庫、台車など)を扱う商社の営業マンがそこの社長を連れてきた。新しい工場を建てるのだったら、大きな売り上げに繫がりそうだから是非とも挨拶しておこうとの目論見だろう。

仕事の話や雑談をするうちに社長曰く「近々新しいカタログを発行する予定で或る」ことを仄ほのめかしてくれた。小生空かさず、前述の思いを説明しながら「本とかカタログの表表紙や裏表紙の内側の 3~4 頁は概ね何も印刷されていない白紙である。新しい工場には新しい若い人が多いので物品の名前を知らない人が殆どであるから、そこにイメージを代表するような写真と品名に頁番号を添えた“目で見る索引”があれば重宝すること請合いです。」と。

社長さんはシガナイ若輩者の訴えに耳を貸してくれ、「それは気付かなかった。検討してみましょう。」と。

 

カタログの発行を一か月後に控えていた時期だったそうだが、社長さんは関係者に大号令をかけて小生のアイデアを実現するべく対応してくれたそうで、面会の二か月後に新しいカタログを持ってきてくれた。小生の希望通りの仕上がりに感激。

 

それから数年後にはその会社のカタログのみならず事務用品、什器備品、研究用備品、電動&手作業工具、金属加工工具等々のカタログが多数、表紙の内側の空白だった頁に写真式索引を採用していた。

 

特許申請はしてなかったので、世間の皆様が大いに真似してくれたおかげで利用者にはとても便利になったと思います。私はそういうのを見るたび独りでほくそ笑んでいました。もしも写真式索引のカタログを見られた方は、誰かが「拙者のアイデアだと言っていたような?」と思いだして下されば嬉しく思います。 (プロジェクトtiny-xその①)

 

昭和59年(1984年)、生産技術者として自動車用ABS(Anti-skid Brake System)装置の製造工程を設計していた。組立検査工程及び設備の設計が半ばの時点でも、まだ製品設計が終わっていなかった。

 

ABSは急ブレーキを掛けた時に車輪にスリップが生じると車輪の圧力を減じる制御をする。圧力が掛かったブレーキ液を車輪側ホイールシリンダーからブレーキマスターシリンダーに戻す動作である。この時にブレーキペダルにコココンと叩き戻される感触(キックバックと称した)が伝わる。そのブレーキペダルの感触が日本人好みでないので改善するようカーメーカーから要求されていた。 キックバックを無くすにはホイールシリンダーのブレーキ液をマスターシリンダーに直接戻さずどこかに溜めれば良い。そこは油圧用語でアキュムレーターと呼ぶ。それには高圧ガスを利用するゴム袋式とピストン式があり、更にピストン式ではバネの利用もある。高圧ガスは扱いが厄介なので、設計者はバネを使うことにした。バネは最良の特性を持つ物を選択していたにも関わらず耐久性に難があった。

 

小生の分担の組立検査装置の設計等できることはすべて済ませていたので、そのアキュムレーター部品と油圧ユニット完成図を待っている間は暇だった。そこで、上司の許可を得て実車テストに同行し、ビデオカメラで種々の実験風景をすべて録画してみた。

 

帰社してから、そのビデオを新会社設立に合わせて雇用された従業員(若手新卒者、親会社からの派遣等など)の皆に映画教室さながら紹介した。それを観た方々はABSがどういうものか見当もつかないまま働いていたところ、自分たちの製品の優れた機能に感動し、モチベーションが高揚し仕事中の目が輝き、やる気と活気を強く感じるようになった。

 

一方そのビデオを見た常務取締役から「ABSの効果が顕著にわかる場面を集めて10 分間に纏まとめろ!それを銀行に見せ、大きな投資を得たい。」と。さて会社にはビデオデッキが一つしかなかったので、個人所有の物を持参して対応する事に。

最適なシーンを選択し順序良くダビングし最後に BGM とともにナレーションを入れるという作業。ナレーションには小生と懇意にしていて声が綺麗な親会社の女性にお願いしたが、如何せん初めてのことで緊張しまくりで失敗の連続。

そうした折、小生が座位のままで姿勢を変えたところ放屁にも似た音が出た。ブーブークッションより相当面白い響き!それを聞いた彼女は笑い転げ、止まらなくなった。まぁしょうがないとして暫く待った。再度挑戦してみたら、実に巧く行った。緊張の中の笑いは有益な切っ掛けになることを学んだ。

編集したビデオテープを常務に渡したら、ありがとうの一言だった。銀行から融資を得たかは知らされなかったが、その後の予算申請に削減命令が無かったので成功したのであろう。(プロジェクトtiny-xその②)(ABS解説動画{後年プロが作成した最新情報}:https://www.youtube.com/watch?v=vn3fVmeV560)

 

工程設計作業を中断し、暇のままではじれったいこと!この上なし。 ABS 開発メンバーは5人だったが、油圧ユニット部の設計者は同期入社の彼一人、耐久性問題に頭を抱えていた。

上述の話題の実車テストにおいて、撮影の合間に試験車を運転してオリジナルABS のキックバックを感じ、またそれを対策した日本版 ABS ユニットの感触を比較する事で、アキュムレーターの改善策が少しイメージできていた。 さてさて様相は呉越同舟、船頭が行き詰っていたら舟は進まず沈む懸念さえある。乗り合わせた誼よしみで助けるほかはない。

アキュムレーターに関するアイデアを図面にして「ダメ元でも良いから1セット作って試してみてよ。」と設計者に渡した。開発設計部門の担当者が一いち生産技術者のアイデアに頼ることなど過去には例がなかった所、彼は産みの苦しみの最中、藁にもすがる思いで受け入れてくれた。

 

新しい試作品は性能試験と耐久性試験共にあっさり合格。

目出度く量産図面に反映・承認され、ひいては量産工程の設計が完了した。 その後、組立ラインがどうにか完成。小生のアイデアが製品開発に成功し量産開始に寄与できたことを誇りに思っている。(添付図参照) (プロジェクトtiny-xその③)

ABS 油圧ユニットは複雑で大きく重くなって、RB 社オリジナルに比べ当然売価も大きく上昇した。その為、顧客の要求を満たす物を作ったけれども急速な販売増には至らず、数年の間は、適用車種と生産数が少しづつしか増加しませんでした。一つ例外がありました。ABSとセットで装着された高性能車種の電動式チンスポイラーがCMのお陰で、ニーズが高まり知名度は上がったようです。

 

八年程経過後、製造原価低減を実現し適用車種大幅拡大を目指してアキュムレーターは簡易構造のダンパーと呼ばれた RB 社のオリジナルに戻された模様です。 小生のアイデアは暫定活躍出来ましたがお役御免になりました。

それからというもの法規制のお陰もあり全車種適用の運びになりました。今では軽自動車にも適用され、皆様の安全運転の助けになっていることは感慨深いものです。

 

近年、高性能充電池の開発と量産化に伴い化石燃料を利用する自動車はhybridやEV化へ大きく舵を繰ろうとしています。

電気モーターの特性は、低速回転時はトルクが高く高速回転になるに従い低減すれども、変速ギアが不要で低速から高速まで制御が可能なこと。新幹線には変速ギアは無く、ゼロ発進から最高速度300km/h 以上で走るまで電気モーターでのみ制御されるのは周知の通りです。

 

そんな恩恵に預かり、例えば4輪がすべて電気モーターの駆動に成れば、各車輪個別に速度制御できるので、ABSは不要になる運命。

現在いくら優れたシステムでも時代の変遷に応じて技術や製品形態は移り変わり世代交代が避けられないことを改めて認識するのは悲しい気もします。



運営からのコメント

NHK「プロジェクト-X」は、国内技術者の偉業を讃えた番組ですが、技術者の1人として「俺だって多少なりとも輝くような足跡は残してきたんだぜ」と、当人のプロジェクトXをご紹介頂いています。同じ学校の卒業生が、人知れずこんな活躍をしていたんだと想うととても嬉しくなります。ぜひご一読ください。
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