OBからのメッセージ No.14
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佐野 満秋卒業年度:1975年(S50年)
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佐野 満秋卒業年度:1975年(S50年)
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表題
- 高専の思い出その2
高橋教授の物理学、小柄なご老体と話し方が映画評論家の淀川長治似の独特だったので妙に面白く記憶に残っている。その講義の内容と卒業後見聞きした実状とを比べてみた。
1 ペルチェ効果
1971 年(昭和46年)高専2年の物理の講義中、リード線が繋がった一辺50mmほどのサイコロ状の構造体を見せてくれた。一つの面には氷が付いていた。「これは電気を流すだけで金属面が冷たくなり載せていた水が凍結したものです。ペルチェ素子と呼びます。」と。通常ニクロム線等の電気抵抗体に通電すると発熱するということは周知の事実。一方、二種類の金属を接合したものが温度変化で電位差を生じる性質が知られており、所謂「熱電対」と呼ばれている。しからばその金属の電位差の逆に通電すれば吸熱反応を起こして冷えるのではないか?と誰かが試したのだが、察するにそれが1834年のペルチェ博士だったのかもしれない。
あれから半世紀近く経った今、ペルチェ効果を利用した冷蔵庫の広告をインターネットでたまに見かける。2022年始め頃、高齢の義母が特別介護施設に入所する際に持たせる為小型で静かな冷蔵庫を探していたら、それがあった。コンプレッサーもエバポレーターも冷媒も要らなければ電動ファンもモーターも不要で、静かでコンパクトになるはずなのだが市場ではまだまだマイナーな存在のようである。冷却限界が低くならないのか廉価な製造方法に辿り着いていないのか? 理論の具現化と技術の革新には例えどれほど優れた理屈があろうと長い時間が掛る場合があることを知るのである。
2 レーザー光線
同じ頃、レーザー光線を見せてくれた。レーザー装置を壁に向けながら起動すると壁に小さな赤い点が映った!「この光は他の光とは異なり放射状に広がることなく一直線に進みます。何かの方法で赤い点の位置を制御できれば、近い将来様々な分野に利用範囲が格段に広がることでしょう!」と。
尚、レーザー光の言葉を知ったのは中学3年の時1969年7月に、アポロ11号が月に行った時に設置してきたレーザー光反射鏡とそこへ目掛けてレーザー光を照射して月との距離を測る計画をニュースで聞いた時である。
社会人になってからレーザー光線の関わりが何度かあった。
1 件目:炭酸ガスレーザー溶接機
1985 年頃、自動車用 ABS の生産立ち上げで、車輪速度センサーの電磁コイルのケースと鉄の心棒を気密封止するのに炭酸ガスレーザー溶接機(以下 CO2LW と略す)が使われていた。レーザー発振部は直径φ100mmほどのガラス管で長さは5mほどもあり、あまりにも長いので途中折り返し部と反射鏡を介して光を励起していた。溶接部は直径φ5mm程の円周で、これを回転して溶接にかかる時間は1秒程であった。
2 件目:3方向からレーザーを照射して立体映像を作成する装置
1992 年始め頃、デトロイト産業機械展示会を見に行く機会があった。そこで目にしたのは一辺が 600 ㎜程の立方形で、正面側の壁が無い空間になっており内壁は黒かった。その中に手をかざすと、なんと空間の中央付近に大きさ 100mm ほどの色鮮やかな歯車が立体映像で浮かび上がり、それが回転したり傾いたり色々なグラデーションに変化するのを見せてくれた。3方向からレーザーを照射してその交点が輝いて立体映像になるとのこと。将来の映画などが激変する可能性にも期待できそう。
3 件目:レーザー光を照射して立体構造体を成型
1992 年暮頃、エアバッグ用ECUを小型化するプロジェクトで見たLaser Lithography (レーザー石板印刷)という技法。光硬化性樹脂を満たした容器内に形成物体を載せる台を置き、表面にレーザー光線を当てる事で樹脂を硬化させ、徐々に沈めていく事で立体を成型する。そのケースを試作するのに通常2か月ほどかかる処を僅か3日で作り上げたのである。今でこそ3Dプリンターは周知の装置でとても安価になって来たが、当時はまだ暗中模索の時代であったように思う。
4 件目:容器の気密封止に導入したCO2LW
1995 年、自動車向けエアバッグ用インフレーターの容器の気密封止に導入したCO2LW。本体は直径φ900mm×長さ1,200mm程で消費電力6kWと大きい物。溶接する部位が直径約φ90mmで溶け込み深さ1.5mm程を約3秒で溶接出来た。溶接時間が短いのと温度上昇を回避できるメリットがある。(因みに余談ながらその目的の手法はこの他に電子ビーム溶接がある。)円筒状の胴体と両端に取り付けられた二つの円盤状の蓋とそこへ取り付けられた直径φ50mm 程の反射鏡と片側の蓋には透過型反射鏡、内部には両反射鏡の間の空間に直行するように設置された陽極・陰極二つの電極、反射鏡の間に大量のCO2ガスをシロッコファンで供給しながら二つの電極の間に高いエネルギーを放電して光を励起させるという機構。反射鏡の最終段は凹面鏡になっていて焦点直径がφ1mmならエネルギーは単純計算で2500倍に増幅する。但し放電が激しいので炭酸ガスが分離して炭素分子が電極に堆積するので出力が減っていく為、頻繁な分解掃除が不可避であることが判明した。
5 件目:QRコードを金属表面にレーザーで彫刻
1999 年頃、米国のインフレーターのメーカーがロットトレーサビリティーの為にQRコードを製品の金属表面にレーザーで彫刻したもの。□6mm四方の範囲に沢山の情報を彫り込んでいた。バーコードとは比べようもないほどの情報量が彫刻出来る上、スキャンミスも激減したとのことである。今ではスマホでURLを読み取ることは便利な生活の一部になっている。
6 件目:青色ファイバーレーザー溶接機
2010 年頃、同じくインフレーター容器の溶接に用いた青色ファイバーレーザー溶接機。レーザー光は小型の発振器から溶接部まで細い光ファイバーで結ばれている。ファイバー出口の光で直接溶接できるのとファイバーの経路配置が容易なので発振器本体を溶接工程のすぐそばに設置出来ることから全体が極めてコンパクトに配置できた。ファイバーは溶けないのに鉄材の溶接ができるのには驚いた。
今ではレーザー光は医療、通信、映画・音楽、センサー&測量、工業技術(熱処理、加工&成型)、軍需産業等に広く応用されている。理論が具現化して用途が多種多様な分野に飛躍的に進歩発展していく驚愕の一例であろう。
